岡山市中区江崎の岡山脳神経内科クリニック|脳神経内科・内科

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浦島効果と乙姫効果  

新年あけましておめでとうございます。それにしても、時間が経つのは早い。アッという間に1年が過ぎました。時間はどうにも操作できませんが、みんな過去を覗きたい、やり直したいとか願っているからでしょうか、 “時間操作”を扱った物語は結構ありますネ。古くは「タイムトンネル」。私がアリゾナの砂漠に興味を持ったきっかけです。手塚治虫の「不思議な少年」サブタンは時間を止めることができました。他にも「タイム・トラベラー」のケン・ソゴル、「時をかける少女」、「戦国自衛隊」、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、鯨統一郎の「タイムスリップシリーズ」、「JIN−」など、次々に思い浮かびます(昭和人にしか浮かばないか)。若者でも知ってる「ドラえもん」も未来から。文学界には「リップ・ヴァン・ウィンクル」もあったナ。しかし、“時間もの”の元祖は「浦島太郎」です。

むかしむかし、浦島太郎は助けた亀に連れられて竜宮城に行きました。そこで迎えてくれた乙姫様と魅惑の時間を過ごし、あっという間に3年経ってしまいました。タイやヒラメの舞い踊りがそんなに楽しいとも思えませんが、昔はこれが最大級の娯楽だったのでしょうかね。それはさておき、問題はこれからです。里心ついて故郷に帰ってみると、実は300年(700年説も)も経っていたのでした。そんな事実を太郎に知らせもせず留め置いた乙姫様は結構残酷者デス。愛する息子、一家の働き手が急に消えてしまった母の悲しみはどうですか。恋する時間も、社会の試練も知らない一生。成長の機会を逃してしまいましたネ。とても亀を助けたお礼に見合うとは思えません。真珠かサンゴかレアメタルの山を渡してすぐに帰せばよかったかと。永遠の命を持つ姫様ですから世俗的苦悩を考える思考回路は無いのかもしれません。快楽におぼれて3年間も故郷を忘れていた太郎さんの能天気さにも問題あるかも。いや、若者ならありか。MLBのイチローさんならすぐに戻って修練に励むところです。

悪のとどめは玉手箱に封印された300年という魂の時間。困って開けたら、あっという間に300年経って白髪の老人化。ホラー映画なら、みるみる老化が進み、老人を通り越してしおれ、白骨化し、灰になってしまうパターンです。人間様の世界ならば、故郷に帰る人へのお土産は、楽しいか、おいしいか、高価か、珍しい品物ですねえ。お別れ場面で、呪いのような玉手箱を渡したのが、昔からどうしても納得できませんでした。何で?。まさか、優しくしたのに、裏切って帰ってしまう薄情者への嫌がらせ?。こんな疑問で、苦悩に満ちた少年時代を送ったのでした、ハイ。それとも、太郎が独りぼっちでいる寂しさを和らげるための熟慮された救済策なのか?。今でも悩みは尽きません。

ところで、竜宮城には無縁な善良市民でも、老化が急速に進む場面があります。わかりやすいのは高齢者の入院。風邪でも肺炎でも骨折でも、1週間くらい寝込むと歩けなくなり、物忘れが進みます。絶食すると飲み込めなくなり、オシッコを管で採ると、自力での排出が困難になります。機能を使わなくなったための廃用性障害です。同様な変化は入院に限らず、日常生活の変化、たとえば一緒に暮らす配偶者が不在となったり、転居で環境が変わっても生じ得ます。それまで頑張って維持してきた機能が、玉手箱を開いたように一気に失われるのです。私は密かにこれを“浦島効果”と呼んでいます。こんなことなら故郷に帰らず乙姫様と楽しい日々を続ければ良かったと悔いても、もう遅い。逆に、竜宮城のように 身体、五感を存分に刺激し続けると、心身の機能が長らく良好に維持されるのは「乙姫効果」と呼びますか。

残念ながら乙姫様はなかなか会いに来てはくれません。一般市民が心身を健康に保つためには、脳と身体の良い刺激を絶やさず、けがや感染の予防を心がけましょう。インフルエンザが猛威です。