岡山市中区江崎の岡山脳神経内科クリニック|脳神経内科・内科

〒702-8005
岡山県岡山市中区江崎104番地-16

MENU

レール

人間は何のために生きるか。生物学的には子供を作り、一族を繁栄させること。社会的には自分で考え、自分の決断に基づいて選択し、己の人生を豊かに生き抜くことにあると思います。自分で考え、正しく(有意義に)、実りある行動ができるためには、正しく考えることが求められます、そのためには様々な知識に触れ、体験して、自分がどんな存在かを考え、社会とのかかわりの中で何を選択し、どのように生きるかを決断する必要があります。例えば、自分の欲求ばかり主張しても周囲に受け入れられないことを知り、みんなと協調してより豊かに生きていける智慧、自己実現を達成できる生き方を身に付けることが必要です。自分は何者か、人生の目的は何かなどについて自分なりの考えを得る過程は自我の確立とか、自己同一性の確立とか呼ばれます。

自己同一性の確立という重要な青年期の発達課題は、自分の力で様々に考え、悩み、経験し、書物等からの知識や先達、友人の助言を得、さらに経験を深める中で達成して行くものです。中学生、高校生、大学生、新人社会人時代に一種のモラトリアムを得ながら苦しんで課題を達成し、一人前になります。もちろん、その後も磨きをかけるので、修行は一生続きます。

世の親は、子供に苦労させないように、しばしばレールを準備し、その上を走る人生を計画します。幼稚園時代からお受験をし、良い大学までエスカレーター式に進む道をつけるとか。迷わず、考えないで大人に達することが出来るわけです。レールの上は安全で、混雑なく、他の物に進行を妨げられる危険性も少なく、素早く前進できるでしょう。一方で、レールを外れては動けません。知識はあっても、他者の気持ちを配慮したり、様々な視点を考慮したうえで結論を出す広い考えが出来なかったりで、自己同一性確立の課題が達成され難くなるかもしれません。この時期の勉強は知識以上に智慧を身に着けることが大切で、机上の勉強よりも思索、読書や友人、地域との交流が気付かせてくれるものは多いと思われます。もちろん、エスカレーター式の進学で受験勉強にかける時間を減らし、そういった有意義なことに没頭して自分を磨くという考え方もあるので、エスカレーターが一概に悪いわけではありません。昔から「旅をさせろ」と言うように、若い時代の苦労や試行錯誤は人生修行の観点から必ずしも無駄ではないことを言いたいです。(あれ、今の旅は苦行ではなく、USJ、ディズニーランドかな?)いじめや詐欺行為による悩みは別問題で、他者の助けが必要です。

先の衆議院選挙では世襲議員への批判が出ておりました。有名政治家の御子息は残念なことに、どうしても社会の配慮のもとで成長するので、長谷川平蔵のように家を離れて無頼生活する期間があるとか、遠山の金さんや暴れん坊将軍のように身分を隠して実社会に触れる時間でもないと、世間の苦労や問題点が見えません。地盤や看板がすでにあるための不公平と併わせ、世の重要方針を決定する役割者としては、問題が大きいと感じます。同じ世襲でも、芸能界、スポーツ界は実力が簡単に見えてしまうので、デビュー当初に話題になることはあっても、あまり不公平を感じさせないでしょう。医師も家内で同業者が多い方かと思います。誰でも挑戦可能であり、入学受験、国家試験という結構厳しい関門もあるため、機会は公平と思います。仕事自体かなりハードなので、大病院でも経営していない限りは積極的に子供に奨めることはないと思います。社会貢献できる仕事ということで、子供の側で将来の選択肢に入れる確率は高いかもしれません。

親は子に苦労なく楽しく成長してほしい。レールを敷いて親の路線で楽に人生を進めさせたい。しかし、レールの上を走ると、それは親の人生の延長で、自分を生きていないかもしれない。楽すると心が育たない、考えないと自我が確立し難い。生まれた時点で身分や将来の生活が決まってしまう封建時代がありました。人生選択の葛藤はないけれど、領主様の人生を生きているわけで、領主が死ぬと殉死とかもありましたね。レールの上は、一般道よりも薬で安全かもしれませんが、自己の完成には不利というお話しでした。日々これ修行。頑張りましょう。それにしても大谷選手の自己実現力は素晴らしい。