岡山市中区江崎の岡山脳神経内科クリニック|脳神経内科・内科

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ステレオタイプ

固定観念とか紋切り型な見かた、考えかたを意味します。医療業界に関して言うと、大学病院は常に白い巨塔であり、中に生息する医師は権力闘争に明け暮れ、教授様ともなると製薬会社と結託して巨万の富を吸い上げるとの考え方です。ミステリーものでもよく殺人事件の舞台になります。時代劇なら悪代官と備前屋が手を結んでコメ、油、材木の値を吊り上げて上前を撥ね、若い娘をかどわかして悪銭を得るのと同じ構図。悪代官なら黄門様の印籠に「控えおろう」とやられるし、暴れん坊将軍吉宗には「上様であるはずがない、構わぬ、殺ってしまえ」と開き直るところを「成敗」されるのが定番です。権威や力を正義に重ねたワンパターンなので、ストーリーがわかりやすく、安心して見ることができます。医療ものの場合は、そんな巨塔のヒエラルキーに染まらない腕自慢の医師が権威をものともせず、圧倒的な技量で手術して患者を救うというワンパターンに視聴者は溜飲を下げる訳です。権威も力量もない一般市民はヒーローになれないかというと、一銀行女子社員が「お言葉を返すようですが」と不条理をただすドラマも、パターンにはまったあとの展開が読めて安心して楽しめます。勧善懲悪でスッキリするのはエンターテインメントとしてはストレス解消によいですねえ。配役で犯人に見当がつくミステリーもありますが、これは蛇足。疲れて帰宅した後まで、難しい展開のストーリーでハラハラ過ごしたくないです。もちろん、現実はそんなに単純ではありません。しかし、なかにはドラマを現実と重ねてしまう人があり、ドラマ名医が難病を一気に治してしまうのを引き合いに、病気が良くならないのは医療ミスだとか、ヤブとか言われてしまいます。現実世界の人間は不死身ではありません。なお、医療ドラマの名医は外科医か救急医系です。内科医の治療は効果が出るのに時間がかかり、1時間もののドラマでは放送時間内に決着がつきません。

現実世界の大学病院スタッフの大半は、私が知る限り一般診療に加えて新しい治療法や病気の原因解明、次世代の医師の育成等に懸命の努力をしています。富に関しては、製薬会社から研究助成、講演料、原稿料が入ることがありますが、すべて公表です。報酬が一定額を超えると、治療方針を決めるガイドライン作成委員にはなれません。また、研究報告時にはどこから資金を得たかとか、利益相反の記載が必須となっています。政治の世界には詳しくありませんが、全公開ですから、報告義務のない世界と比べると、かなり透明度は高いと思います。

さて、医療ドラマで違和感を感じる紋切り型は他にも多々あります。例えば“白衣”。みんな前を開け、ヒラヒラさせて歩いています。偉そうに見せる演出でしょうか。CMも含め、きちんと前ボタンを止めている医師の姿は見かけません。そもそも白衣は汚れから医師の衣服や身を遮断するためのものです。実臨床では患者さんの血液、喀痰、吐物、おしっこ、便などと接する機会がままあります。特に救急場面では避けられません。目に見えない感染物質との接触機会もいっぱいです。前が開いていると、着衣にこれらが直接付着し、街中や家庭に汚染、感染物質を持ち出してしまいます。白衣を着る意味がありません。また、ヒラヒラさせていると、付着した汚染物質を周囲にまき散らします。白衣を着たまま病院外に出るのも、感染防止の観点からはレッドカードです。ナースの象徴だったナースキャップでさえ、付着した細菌をばらまく恐れから廃止され、今やノスタルジー世界の存在となりました。ドラマに感化された若い医師が白衣の前を開けてふらふら歩かないことを祈ります。

医療ドラマでの紋切り型と言えるかどうか、救急車が到着すると研修医がばらばらと駆け寄るシーンも良く登場します。イケメン男女が演じる颯爽として美しい場面です。私が勤務していた地方の一般病院では夜間、医師は1人です。救急車が来ると医師、ナース、事務方が駆け寄りますが、医師多数はありません。逆に当直医1人に救急車同時3台とかを何度か経験しました。重症そうなところから対応するのですが、先着の軽症者から怒られたりもする訳で、修羅場ではあってもドラマのような感動的場面にはなりません。

医療での紋切り型をもう一つ。昔は医師像といえば額に丸い鏡(額帯鏡)をつけているのが定番でした。耳鼻科医が使うのですが、何故医師全体の象徴になったのか、不思議です。ちなみに脳神経内科医の私が耳を覗く時には耳鏡を使います。ライト内蔵なので、丸い鏡で耳に集光させる必要はありません。ちなみに、脳神経内科医の象徴的道具はハンマーです。単純ですが、使う人が使えば得られる情報はとても大きい。コンコン。