2026/07/01
サッカーW杯は日本がブラジルに敗北し、盛り上がった熱気は一気に霧消しました。優勝候補だけあって、ブラジルの攻撃力はわが国代表よりも強力と映りました。対戦前、日本のマスコミでは「勝ちます」といった威勢のいい話が飛び交い、「新しい景色を見る」のが当然の雰囲気がありました。その延長線上でか、相手へのリスペクトを欠くような代表選手の発言もあり、相手を燃え上がらせてしまいました。勝利を信じての前向き行動は能力全開に有用ですが、盲目的思い込みは逆効果かも。いずれにせよ、最近の侍ジャパンは、見ていて楽しい。ずいぶんレベルアップした証拠で、そのうち本当に優勝が狙えそうです。
というわけで、今回は「思い込み」にまつわるお話し。童謡「紅葉(もみじ)」の歌詞は、 「秋の夕日に照る山もみじ 濃いも薄いも数ある中に 松を彩る楓や蔦は 山のふもとの裾模様」です。かつて、私の頭の中では「濃いも薄いも」がどうしても「鯉もウグイも」になり、川面に紅の葉が散り敷いて流れる風景が何ら違和感なく出現。その合間を悠々と泳ぐ錦鯉やウグイが色を添えるわけです。ウグイはどちらかというと色鮮やかなオイカワにすり替わっているかも。勘違いに気付いた後も、思い浮かぶ風景は同じです。美しい。有名?な誤認例は「重いコンダラ」。“巨人の星”のテーマソングの中で、星飛馬は重いコンダラを用いてトレーニングするイメージですが、「コンダラ」とは何?ダンベルの一種?かつて学校のどこにでもあった手引きの地ならしローラーのイメージかなア。正しくは、もちろん「思い込んだら」で、「試練の道をし」と続きます。昭和世代の一部にしかわからないお話しで、すみません。
医療現場にも思い込みはしばしば。かつて多かったのは癌ノイローゼ。体調不良の原因を癌と確信して恐れおののく状態です。癌の治療成績が上がったせいか、最近あまり耳にしなくなりました。一方で、脳神経内科で多いのはALS恐怖です。ALSは脳神経内科領域の疾患の中では最悪の病気。どんどん筋肉の力が低下し、半年~数年で呼吸できなくなってしまいます。いく種か薬はありますが、効果不十分。疲労などで四肢の筋がぴくぴく動くことがありますが、ALSでもこの症状があり、ネットで調べるとこの病名が一番に上がるためか、恐怖に駆られてしまうのです。診察の結果「そうではない」と否定しても、納得されません。一年くらい我慢で待つと、悪化しないことから、やっと信じてもらえます。よかった。
他にはこういう思い込みもありました。脳梗塞の患者さんが運ばれてくると血圧を至適な状態にコントローします。かつて、高血圧は下げずに放置でした。脳の循環を保つために「脳梗塞急性期には血圧を下げない」という理屈です。血圧が高いと詰まりかけの血管を押し広げ、脳の循環を良くするであろうといる漠然とした理由でそういう風潮になったらしい。でも、科学的根拠はありませでした。一方で、現場では、梗塞発症早期から血圧正常化を目指して調整しておりました。大きな脳梗塞では出血を生じることもあり、高血圧のままでは出血が心配です。現在では当初からの血圧コントロールが当たり前になっています。痩せている方が健康で長生きというのも誤解。仙人は痩せているイメージですしねえ。しかし、日本人の場合、一番長生きなのはBMIが24程度のちょい太です。検診ではBMI 22が推奨されています。ちなみに肥満は25以上です。人の一生の心拍数は決まっており、運動すると速く拍動するので、死期が近づくと考える人がありますが、これも怪しい。適度な運動は寿命を延ばします。脳神経内科の外来で一番多い訴えは頭痛、次いでめまいです。めまいの原因は耳からと言うのが定番ですが、これも怪しい。大半は片頭痛関連症状。頻回に反復し、ひどい耳鳴りや聴覚低下がない場合、多くは片頭痛がらみと思います。頭痛も一緒に出没しているか、かつてしていたならその確率は上がります。
ビタミンをたくさん取れば元気になるというのも、幻想かも。健康人は、必要以上に摂取しても多くはオシッコから逃げていくだけです。しかし、こんな思い込みを逆利用しているとしか思えない健康食品やサプリの広告が氾濫しています。筋肉や軟骨の成分を含む健康食品。ビタミンや組織の成分を摂取すると筋肉や関節が強化され、健康度が増すイメージ。俳優さんが笑顔で語ると信じますネ。還暦過ぎると衰える一方の脳。その成分は水分を除けばコレステロールとタンパク質。霜降りたっぷりの千屋牛をしっかり食べると、賢くなれるものかどうか?
