2026/06/01
白と黒は最も明確に対立する色の組み合わせです。その対比はしばしば善悪、正邪、正誤などの象徴に使われます。このため、「白黒をつける」は 正誤をはっきりさせる、決着をつけるという意味になります。決着なくとも白黒は、鯨幕(葬儀時の白黒幕です)、碁石、シマウマ、パンダ、セキレイ、、、、人間界にも自然界にも多様な形で存在しています。
さて、世の中は白か黒とは限りません。そんなに簡単には分けられず、大部分は灰色です。ゼロか100ではなく、10だったり75だったり。交通事故でも走っている同士の事故だったら100%過失にはならない。しかし、社会は“良い”か“悪い”かのどちらかに決めたがる。単純化の風潮です。悪ければ少しでも「100%あんたが悪い」訳です。直近、 “暴力”を振るったために100%悪物となり、社会から抹殺とかいう事件がありました。今回、“白黒”がテーマに浮かんだのもこのせいです。もちろん暴力はいけませんが、暴力の程度、陰湿さに結果の重大性が見合っているのかどうか。もう少し事情が明らかになってからの結論でもよかったではないかと釈然としない思いです。手は出さなくとも、陰惨な言葉の暴力や心を挫く様々な不条理が日常的に横行している昨今。家庭内問題レベルとも見えるトラブルが大きな注目を浴びてしまいました。身体的暴力ということで、した側が100%悪いのですが、並行して話題を呼んでいる北海道の陰惨な2件の殺人事件やイジメ自殺事件とは全く悪質度、深刻度が異なるように思えます。
白黒をつける難しさは、クリニックでの診療場面でも経験されます。病気の診断は初期には難しいことがしばしばです。症状が明確でない時点での早期診断確定には高額検査、侵襲的検査が必要となります。検査してもなお決着できないこともありです。一方で、待てばはっきりしてきます。待って“手遅れ“になる癌とかでなければ、”待つ“のも診断の一法です。あえて白黒つけずに経過を見る訳です。逆位高度に病気が進行し、高齢もあって、いろんな病気が合併している方が初診でおいでの場合も問題ありです。そんな状態では特定の病気の検出が難しいです。典型的症状が他要因で生じた症状に覆い隠されるからです。認知症があってコミュニケーションが取れず、脳梗塞による麻痺と心不全による息切れで動けない方のパーキンソン病診断とかがそれにあたります。典型的症状があればそれでも診断可能ですが、典型症状が隠され、安静不能でMRIやSPECT検査も困難な場合の診断はむつかしい。もちろん、診断がついても、全身状態の悪い方は、治療に反応せず、眠気、幻覚、食欲不振など副作用ばかり出ることも稀ではありません。なかなか教科書通りにはいかないわけです。
現実社会ではこのような不確定波が押し寄せる海原を知識、経験をもとに上手に渡って行くことが求められます。いくら上手く操船しても、大嵐や津波がくれば退却するしかありません。また、平穏な凪の海でも油断すると転落して溺れます。
最近は、白か黒か、良いか悪いかの二択。単純化の圧力が強いと感じます。マニュアル化、ガイドライン化もそうです。マニュアルには必要なすべてを記載してあり、記載のないことは対応しなくてOKとなると、良い「おもてなし」は出来ません。臨機応変、自分で考える姿勢が大切です。というわけで、最近は接客等のマニュアルを利用しないお店もあるようです。自分で考えないとよいおもてなしは出来ません。禁止されてないことは何をしても良いという考えにもつながり、結局社会適応を悪くしてしまいます。法律的には“阿吽の呼吸”などは意味がないと思われます。が、医療では結構必要で、“さじ加減”とか言われます。結構大切なのですが、昭和の考え方なのでしょうか。ちなみに一般的な疾患診療ガイドラインでは、証拠に従った最低限の診療姿勢が記載されています。基本方針は良いのですが、実際の診療は患者さんの状態に合わせて様々に応用を利かせます。ガイドライン通りの治療は研修医レベルの治療です。条件の良い、軽症で安定した患者さんくらいにしか通用しないかも知れません。対応がガイドライン通りでないとクレームが出ることがあるそうですが、ガイドライン作成の意義を知っておれば、そういうクレームにはつながりません。ちなみに裁判でも、ガイドラインに沿っていないことを訴えの根拠にしないよう、注意書きがされていると思います。
診療でも、人生でも、大切なのは十分な知識をもとに自分で考え、決断することです。先日の父娘事件では、娘が決断をAIに求めたことが大きな問題につながる契機となった可能性が論じられています。AIによる情報収集はとても便利ですが、偽情報も混ざります。当院の情報をAIに聞くと「小児科」と回答が出たと、通院する患者さんが教えてくれました。ローマ法王は「AIは人に仕える道具」と表明しています。秘書代わりとしては便利ですが、決断するのは人間です。最近いろんな国で、若者のSNS使用を制限するようになっています。決断能力を奪うAI。自我の確立が重要な思春期まではAIに決断を任せるのは望ましくないのではないかと感じています。
白黒の対比がAIまで行き着きましたか。蛇足ながら二色の対比が取りざたされるお話しは他にもちらほら。昭和世代の愛読書「赤と黒」は庶民階級出身の青年ジュリアン・ソレル。王政復古下のフランスで、才能と野心をたぎらせて上昇を試みるも、結局支配階級に翻弄されてしまうお話し。作者スタンダールの説明はありませんが、赤は軍隊、黒は僧のようです。金と銀はNHKドラマの「あきない世傳」。相対する色とは言えないかも。最年長アイドルデビューの金さん銀さんは楽しい姉妹でした。平成、令和世代にはわからないか。ワンツーフィニッシュも金と銀。3位だって立派だと思うけれど、どうなのかな?
