岡山市中区江崎の岡山脳神経内科クリニック|脳神経内科・内科

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二刀流

直近の大きなニュースと言えば、超早い梅雨明けと、大谷選手の2年ぶりの投手復活です。二刀流、かつては宮本武蔵の代名詞、今は大谷選手ですねえ。宮本武蔵の二刀流(二天一流)は、両手に刀を持って戦う戦法です。これを拡大解釈すると、二つの異なるものを組み合わせて同時に使い、より大きな効果を得る手段と換言出来そうです。大谷選手のピッチャーとバッターは同時にする訳ではないので、本来の意味を考えると、何となく違和感があります。まあ、一つの試合で二つの異なる能力を駆使して活躍できる状態と拡大解釈すれば、まさに二刀流です。英語ではtwo-way playerなのでよりぴったりです。日本語では「二足の草鞋」が近いですが、草鞋ではパワフルでキレッキレの大谷選手のイメージに会いませんねえ。印象は、時として理屈を凌駕します。

大谷選手の二刀流も、当初はキワモノでプロでは決して大成しないだろう、いずれはどちらかに落ち着くだろうといった言説が、飛び交いました。言った方々の想像を超えた世界だったのでしょう。「二兎を追うものは一兎をも得ず」を都合良く適用した訳です。しかし、多くの予想を裏切って両者で活躍し、今や日本人はもちろん、アメリカでも二刀流が少年野球だけのものではないことが証明されました。「為せば成る」訳で、「前例なんて関係ない!」と、背中を押した日本ハム栗山元監督、エンジェルスのマイク・ソーシア元監督の見識に感心いたします。

ところで、二刀流は二つの異なる領域に熟達しないといけないので、2倍の努力が必要で大変と思われがちですが、必ずしもそうではありません。「文武両道」という言葉もありますが、効率的に両者が伸びる。バランスよく枝が発達した樹にはどっさり実が成るイメージです。しっかり運動している子供は成績がよくなることが証明されています(Hillman et al, Nat Rev Neurosci 2008)。行動の種類は別々でも、指令する脳の領域はそれぞれ影響し合って働いています。相乗効果が期待できる訳です。筋肉だって、一つの動作では鍛えきれない部分が別々に強化され、助け合ってよりパワフルな動きになると思われます。脳も身体も、多種の刺激を加えることでより大きな出力が得られると思われます。大谷選手の場合、投手として投げる日はバッターとしての成績も良いという事実があります。両者を行うことで、各機能が共振し、より優れたパーフォーマンスが可能となる訳です。もちろん、二つのことをプラスで行えるためにはそれなりの基礎力、鍛錬、意思、目標が必要です。 

少し話は変わりますが、一つの事象に集中するよりも、複数を並行して行うことで、より効率的に全体を仕上げられることもあります。一つの作業で疲れた時、仕事を止めてゆっくり休むよりも、別種の作業を並行して行う方が能率が上がり、より早く仕事全体が完遂します。これも、別々の脳部位を刺激することで、より効果的にパーフォーマンスが上がるお話しにつながります。語学学習でも多国語を並行して学べばより早くすべてが身につく理論があります。私事、かつて危機がありました。12月になった時点で年明け7日までの締め切り原稿が10編。大変だなあと思いつつも忘年会に参加していたところ、同じく参加者の友人が「年明けまでに13編頼まれている、、、」とこぼしました。もっと大変な人がいるというのを励みに乗り切ることが出来ました。こんな時には1つの課題に集中して1つづつ仕上げるのではなく、並行作業。1つの課題に取り組んでいる途中、疲れるか飽きたら別の課題に切り替え、これを気分転換としつつ、全体の作業を前に進める荒業をします。できるだけタイプの異なる課題を組み合わせて詰め込むのがポイントです。おそらくは脳の異なる部分が使われることで、ストレスを分散させ、作業効率が上がるのだと思います。A課題、B課題、忘年会。こんな感じでメリハリある活動をし、限られた時間の中で、最大のパーフォーマンスを発揮して何とか全課題をクリアする訳です。ホントは作業を止めてよく寝るのが身体には良いのですが、そんな時間的余裕が無かった頃のお話し。気力、体力、飲力ともに落ちた今、とても真似は出来ません。なお、新1万円札の顔、渋沢栄一は「仕事の疲れは別の仕事で癒す」と行動し、500を超える企業を作り上げました。エジソンは「考えるのに疲れたら、別のアイデアに対象を変え」て1000を超える発明を成し遂げました。

複数脳機能の刺激効果と、それを利用した多忙時のお仕事推進法を披露しました。同時多機能刺激による遂行能力の増強は、認知症予防にも利用されています。運動と認知課題を同時にこなすコグニサイズ。脳の複数部位を同時に刺激することで脳機能を効率的に高めるトレーニング法です。逆に脳機能の一部が損なわれると、障害されなかった機能まで低下することがありますネ。認知機能が低下すると、運動機能の低下が早まります。逆に、動かないでいると認知症が進むのも同じ理屈です。65歳を超えたらぜひ運動と認知刺激の二刀流でお過ごしを。それとも饅頭とビールの二刀流かな?